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ブラック企業の見分け方~ビジネスモデルと事業構造から読み解く

ブラック企業かどうかを見分けたい!入社後に公開したくない!と思われる方も多いのではないでしょうか?

企業の状況は1社1社異なるので共通の絶対的なルールはないのですが、ブラック企業になりやすい素質のある会社の条件というのは存在ます。
というのも、ブラック企業はなるべくしてなるケースが多く、それはビジネスモデルや事業構造に起因するところが大きいのです。
今回はビジネスモデルや事業構造からブラック企業を見分ける方法をお伝えしたいと思います。

 

ブラック企業って?

ブラック企業については様々定義があります。本記事では給料と労働時間の軸で分類分けし「労働時間が長く給料が少ない企業」と定義したいと思います。

本記事ではお給料が少ない企業の見分け方、労働時間が長い企業の見分け方の2つの点から解説していきたいと思います。

給与が少ない企業の見分け方

企業がもっと儲けたいからイジワルして給料を減らしている…というケースもありますが、ほとんどの場合お給料を上げられない事業構造に起因しています。

というのも、その事業が生み出す付加価値が高ければお給料に還元する余力がありますが、そもそも付加価値が少ない事業ではお給料を上げたくても上げられません。従業員一人あたりの粗利が分かれば、どの程度お給料を上げる余地があるのかを見極めることができます。

粗利とは?

粗利とは、売上から原価を差し引いた利益のことです。
会計用語では売上総利益と呼ばれますが、ビジネスの現場では粗利(あらり)と呼ばれることが多く、以降粗利として表現していきます。

例えばドーナツ屋さんをしていた場合を考えてみましょう

売上:ドーナツの売上
粗利:ドーナツの売上 - 原価 (卵、小麦粉など)
営利:粗利 - 販管費 (広告宣伝費、店舗家賃、人件費など)
純利益:営利 - 税金

となるイメージです。

粗利とお給料の関係性

例えば、30円の原価で100円のドーナツを売った場合を考えてみましょう。粗利は100円-30円で70円となります。この粗利の中から広告費に使って売上を増やしたり、人件費にお金を回していくことになります。
この場合30円を使って70円の付加価値を生み出した、とも捉えることができます。

一方、30円の原価で50円のドーナツしか作れなかった場合、残りの20円で将来の投資や広告費、人件費をやりくりする必要があり、従業員のお給料に回せるお金も限りが出てきます。もちろん従業員のみんなのお給料も増やしたいけど、そもそも分配できる利益が少ないのでなるべくケチケチ人件費を削りたいと思うのはご理解いただけるかと思います。結果お給料が増えなかったり、残業代もうまいこと払わなくて済むようにしたりと悪知恵を働かせることになります。

粗利の総額のママだと会社全体の付加価値ということいなるので、実際の給与の伸びしろを考える際は従業員一人あたりで換算しましょう。
先程の例で言えば、10人で70円の利益を生むのと、20人で70円の利益を生むのを考えれば、前者のほうが一人あたりに出せるお給料の上限値は高くなりますよね?

つまり、従業員一人あたりの生み出す付加価値が多ければ多いほど高いお給料を貰える可能性があります。
「そんなの当然じゃん!」と思われるかもしれませんが、これがとても大事なことになります。

「この会社はお給料がいつまで経っても上がらない!」とボヤいている人を見かけますが、そもそもそのビジネスモデルでお給料が増えるわけないじゃん、と言いたくなるような粗利率の場合があります。

また、この一人あたり付加価値は、業種や業態、ビジネスモデルによっておおよそ決められ、そう簡単に変えられるものではありません。そのため、一人あたり付加価値の低い会社に入ってしまうと、入社後あなたがどんなに頑張ったとしても、年収の伸びしろは限られてしまいます。もちろん、そんな事業構造を変えるべくビジネスモデルを変革したり新しい事業を創っていくのもアリですが、実現にはかなり時間がかかってしまいます。

一人あたり粗利ってどうやって計算する?

企業の有価証券報告書などの数値から「売上総利益(粗利)÷従業員数」により算出できます。

また、就活総研で掲載している企業については、「企業分析ページ」にて一人あたり粗利を算出していますので是非ご活用ください。

なぜ粗利を見るの?

利益率であれば営業利益や純利益でみてもいいのでは?と思われるかもしれませんが、営利や純利益はある程度操作できるものです(例えば、今年は利益が少ないから広告費を抑えよう…など)。一方、粗利は先述の通りビジネスモデルや事業構造に由来しており、意図的に調整することが難しいものになります。

投資家であれば営利以降の財務数字が重要になりますが、ビジネスを動かす現場や就職先を考える上では粗利の方が企業/事業の生み出す付加価値を把握するには最もシンプルでわかりやすい指標といえます。

厳密には…

粗利は製造にかかった人件費も含まれるので厳密には粗利≠付加価値となります。

付加価値 =売上 -  仕入れ原価
粗利 =売上 -  原価 (仕入れ原価 + 製造にかかった人件費)

以前は有価証券報告書などでも詳細な原価が記載されていましたが近年は省略されることが多く、決算資料から付加価値を算出することが困難になっています。そのため粗利で代用するのが最も簡単な方法になります。
例えば実際にモノを作るメーカーと、仕入れた商品を売るだけの商社を比べる場合、メーカーは製造にかかる人件費分だけ不利になりますが、同じ業態の企業を比較するのであればほとんど問題ありません。

労働時間が長い企業の見分け方

次に労働時間の長さについても考えてみましょう。労働時間を考える上で、労働集約型どうかが重要な要素になります。

労働集約型ビジネスとは

労働集約型の定義は様々ありますが、今回は「業績を上げようと思ったときにそれに比例して人手が必要となるもの」として定義します。
労働集約的=ブルーワーカー、であり知的な仕事の対義語と思われるかもしれませんが必ずしもそうではありません。

先程のドーナツ屋さんを例に考えてみましょう。このお店が業績を倍にしようと思ったら、広告でお客さんを増やすとか、店舗を増やすなどが考えられますよね。
ただし、お客さんが増えればキッチンもホールもこれまでよりも忙しくなりますし、新しい店舗を作るとなればまた新しくスタッフを雇うなど売上が増えれば増えるほど人手が必要になります。

一方、企業側の視点にたてば、限られた費用の中で最大限の成果を得ようとします。そのため、労働集約型ビジネスではなるべく人員は増やさずに一人ひとりに最大限働いて成果を出してもらうと事業の効率性が向上しますので、その方向に舵を切ろうとします。
その結果一人あたりの労働時間が長く激務になりがちになります。

労働集約型ビジネスの共通点

労働集約型のビジネスはいくつかの共通点があります。

人を相手にするなど機械化しにくい事業

飲食、アパレル、ブライダル、旅行宿泊、運送、介護、人材、教育などの業界が当てはまります。
対人事業であり、機械化などにより効率化が図りにくい事業になります。そのためどうしても人手が介在する必要があり、業績と労働力が密接にリンクしてしまいます。

これらの業界に当てはまれば即NGというわけではなく、どのようなビジネスをしているのかを考えましょう。
例えば、同じ教育業界でも「塾講師で生徒に教える」場合であれば生徒の数に応じて人手が必要となりますが、「教育アプリをつくる」ような場合であれば良いコンテンツを作れば倍働く必要はありません。

投下人員で値段が変わるビジネス

コンサル、SI、クリエイター、建設などがあてはまります。
これらのビジネスは、何人をプロジェクトに投下するかで売上が決まります
たとえば、「このプロジェクトはマネージャーとエンジニアが3人が2ヶ月かかる案件なので〇〇万円」みたいな値付けになります。案件を受けたあとにどんなに創意工夫を凝らして優れたアウトプットをしても、売上を増やすことはできません。売上を増やそうと思うとどんどん案件を受注して行く必要があります。

このように案件の生み出す価値ではなく、どのレベルのメンバーを何人投入するかで決まるため、知的な業務にもかかわらず労働集約的な働き方となります。ホワイトで激務ではないコンサルって聞いたことがないですよね?
また、企業目線で収益性を考えれば、単価の安い末端のメンバーを如何に働かせるかが重要であり、入社後のスキルの無い状態では特に使い倒される可能性が高くなります。
もちろんスキルを高めて付加価値を高め自身の収入を上げていくことは可能ですが、実際に案件を担当する側にいる限り労働時間の長さからは開放されません。

労働集約型でない事業とは?

逆に労働集約型でない事業とはどのようなものでしょうか?

プラットフォーム型事業

例えば、メルカリなどの売買事業を運営している場合を考えてみましょう。
多数の人が使うプラットフォームを一度作り上げてしまえば、その基盤上で売買が成立すればチャリンチャリンと放っておいても手数料を稼ぐことができますよね。

このような事業はプラットフォーム型事業(モノあるいはサービスの利用者と、その提供者をつなぐ基盤を提供するビジネス)と呼ばれ、その基盤の上でビジネスが広がっていくため、売上を倍にするために人手を倍にする必要はありません。

資本集約型事業

鉄道、通信、エネルギー業界などがあてはまります。
事業を始めるに当たり多額の資金を投下する必要があるビジネスです。特徴としては、参入障壁が高く、市場競争が起きにくいため安定して収益を得ることができます
大きな競合の参入や規制緩和がない限り安泰な業種であり、従業員にスキルがなくても利益を得ることができ、いわゆるホワイト企業に分類されることになります。

逆にその既得権益や参入障壁を崩す動きがあると(そもそも従業員にスキルもなく)転職市場での価値は低くなってしまうでしょう。
今回の趣旨からはそれてしまいますが、この業態はそれはそれでリスクが有ることも認識しておく必要があります。

実際の企業選びの際に気をつけること

では実際の企業選びの際に労働集約型=即ダメなのか、というとそうではありません。完全な非労働集約型企業はほとんど存在せず、探すほうが大変です。
そのため、どの程度労働集約的なのか、つまり先程の「売上と必要な人手」のグラフのなるべく傾きが緩やかな企業を探すのが良いでしょう。

実際にその企業のビジネスを知り、どれくらい労働力が必要になるかをイメージしてみましょう。あなたが実際にその会社の従業員だった場合、売上を倍に増やそうと思ったときにどれくらい忙しくなりそうですか?

工夫やその人の能力、または事業戦略次第で事業成長できる余地があるほど、激務/長時間労働になるリスクが減っていきます
また、効率化するほど利益が出るので会社としても少ない労力で業績を上げようとするインセンティブが働きます。その結果、がむしゃらに働くよりも効率よくビジネスを進めることが良しとされ能力が高く効率的に仕事を進められる人ほど昇進し効率性を重視する上司によるマネジメントを受けられる可能性が高くなります

逆に、グラフの傾きが急な企業は効率化による改善余地が少なく、とにかく働いて成果を出すことが良しとされ、会社全体の社風や上司も激務を是となる可能性が高くなってしまいます。難しく考えずに入社後どうやったら成果を上げられるかを考えてみると良いでしょう。

企業単位、職種単位で考える

この労働集約的か否かの考え方はどのような職種に就くかによっても変わります。
例えば、同じ通信会社に勤めていたとしても、訪問販売の営業とマーケティング部署では働き方が変わってきますよね。企業単位という大きな枠組みでもとらえつつ、実際に自分が関わるであろう職種についても一緒に考えてみると良いでしょう。
「自分は企画職を志望しているから関係ない」と考えている方も、それでも企業単位でどのようなビジネスをしているかを見ておくことをオススメします。というのも以下の3点から非労働集約型職種でも激務になる可能性があります。

日系企業の場合は配属リスク、異動リスクがある

昨今ジョブ型雇用(職務などの条件を決めたえで採用するもの)が叫ばれていますが日系企業の大部分はメンバーシップ型雇用(まず採用してから部署異動や転勤などを繰り返してキャリアアップするもの)がまだまだ一般的です。
入社時の配属や入社後の異動(部署が変わること)などにより労働集約的な事業部に配属される可能性があります

社風/評価基準から激務になる

非労働集約的な部署に配属されたからと言って、ゆっくりとした働き方ができるとは限りません。

というのも、例えば会社全体が労働集約型のビジネスで営業職の社員が毎日遅くまで残業をして成果を上げている中、企画職の社員は定時で終わらせて退社する…というのは社内で不公平感がありますよね。本来であれば効率的に仕事を終わらせてさっさと帰れば何も問題ないのですが、残念ながら人の気持ちや組織の感情はそこまで理性的に動かないことが多々あります。これは社風だけでなく、“とにかく頑張っている人が評価される”といった評価基準になっているケースもあり、それをベースとした昇進/昇給になる可能性があります。

上司のマネジメントやが労働集約型になっている可能性が高い

マーケティングなどの非労働集約型の部署は花形部門で人員が限られており、労働集約的な営業などで成果を上げた人が配属されることが多くあります。そのため、非労働集約型部署でも、過去に自身のハードワークで成果を上げ出世してきた上司がいる可能性があり、自身の成功体験を元に「ハードワークして当たり前でしょ?」といったマネジメントをする場合があります。

これら3点はいずれも”可能性が高い”レベルですので会社説明会やOB訪問で確かめると良いでしょう。

まとめ

お給料の伸びしろは一人あたり粗利に、労働時間は労働集約型の程度に影響を受けます。
いずれもその企業のビジネスモデルや事業構造を知ることである程度想定することができます。

労働集約型の事業は長時間労働になりやすい傾向にありますが、逆に言えばとにかく頑張れば成果を出すことができ、その結果多くの経験を積むことができます。
成果を出して非労働集約型の部署に異動願いを出すのもアリですし、その経験を元に転職をするのもありです。

前述のプラットフォーム型や資本集約型ビジネスにおいても、そのビジネスの立ち上げ期のメンバーは非常に貴重な経験やスキルを積める一方、基盤が確立されたあとは特に社員にスキルは必要とされません。

一つの会社で定年まで勤め上げる雇用制度が変わりつつある中で、必ずしも新卒で入る会社がホワイト企業である必要はありません。その人の描くキャリアのステップにあった会社を選ぶ事が重要で、
大切なのは入社する企業のビジネスモデルや収益構造を把握し、こんなはずではなかったのに…を防ぐのが必要です。

ぜひ皆さんも興味のある会社について考えてみることをおすすめします。

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