キャッシュフローマトリクスの読み解き方~企業を変遷を知る
企業の財務3表の1つキャッシュフロー(CF)は、売上・利益といったイメージしやすいPL(損益計算書)に比べてなんだかとっつきにくいイメージがあります。
しかし、キャッシュフローは企業のお金の流れをダイレクトに見ることができる非常に便利な指標のなのです。
というのも、みなさんがよく目にしている利益(営業利益、当期純利益など)は経営の判断であるていど調整ができる(利益をを出すために従業員の人数を抑制したり、資産を売却したり、など)要素なのですが、キャッシュフローはお金の流れを直接見ることができるので、その会社が積極投資しているのか、回収フェーズにいるのか、はたまた、停滞フェーズにいるのかを知ることができます。
ただし、キャッシュフローは単年度で見ても読み取れることは少なく、少なくとも5年以上の経年での変化を見ていかないと情報を読み取ることは出来ません。
その経年の変化をわかりやすく可視化したのが「キャッシュフローマトリクス」であり、今回はその読み解き方についてご紹介したいと思います。
キャッシュフローとは?
そもそもキャッシュフローとは何なのでしょうか?
キャッシュフローとは現金の流れを意味し、企業がビジネスを通して実際に得られた収入や外部への支出の資金の流れのことを指します。そのお金の流れ(キャッシュフロー)は3つに大別でき、「営業キャッシュフロー」「投資キャッシュフロー」「財務キャッシュフロー」に分けられます。
営業キャッシュフロー
営業キャッシュフローは、ビジネスを通して「実際に稼いだお金」で、どちらかというと利益に近い要素になります。ビジネスを通して利益が出ている場合はプラスの値(お金が入ってきている状態)になります。
投資キャッシュフロー
投資キャッシュフローは、「将来のために投資したお金」で、通常はマイナスの値(お金が出て行っている状態)となります。稀に、企業が資産を売却したりして収益を得た場合があるのですが、この場合はお金が入ってくるのでプラスになります。
財務キャッシュフロー
財務キャッシュフローは、「スポンサー(株主・銀行)とのお金のやりとり(調達や還元)」さし、資金調達をしてお金が入ってくる場合はプラス、配当や借金の返済などでお金が出て行く場合はマイナスとなります。
キャッシュフローマトリクスとは
横軸に営業キャッシュフロー(営業CF)、縦軸に投資キャッシュフロー(投資CF)をとったグラフをキャッシュ・フローマトリクスと呼び、このマトリクスのどこにプロットされるかで、企業のフェーズが今どこに位置しているのかを読み取ることが出来ます。
このマトリクスは下記のように6つに分類でき、それぞれについて見ていきたいと思います。
CFマトリクスによる分類
1. 投資期(–投資CF>営業CF>0)
投資額が営業CFより大きく、事業投資している時期であることがわかります。ビジネスで入ってくる金額より投資で出て行く金額が大きいので、会社全体で使えるお金(フリーキャッシュフロー)はどんどん減っていくフェーズです。
こちらは、マトリクスの右下(第四象限)のさらに左下半分に位置します。
2. 安定期(営業CF>-投資CF>0)
営業CFが投資額より大きく、事業投資を回収しているフェーズであることがわかります。投資よりもビジネスで入ってくる金額が大きいので、会社全体で使えるお金は増えていきます。
同じくマトリクスの右下の第四象限の右上半分に位置します
3. 停滞期(営業CF>0>-投資CF)
営業CFはプラスで収益を得ていますが、投資CFがプラス(資産を売却してキャッシュを得ている)フェーズ。
CFマトリクスの右上に位置します。
4. 低迷期(0>-投資CF>営業CF)
営業CFがマイナスでビジネスをすることで損失が出てしまっていますが、資産売却などによって何とか収益を得ているフェーズ。本業のビジネスで赤字がでているため、苦しい状況ではありますが、まだ、資産売却などにより自由に使えるお金が増えている状態になります。
第二象限の右上に位置します。
5. 後退期(0>営業CF>-投資CF)
営業CFのマイナスが、資産売却などによるキャッシュを超えてしまい事業が後退している状態。低迷期との違いは、低迷期はまだ会社が使えるお金(フリーキャッシュフロー)が増えているのに対し、後退期は使えるお金が減少しているところです。
低迷期から後退期に入る要因としては、資産売却により得られる収益よりもビジネスの赤字が増えてしまった、もしくは赤字は同じ金額だが売るものがなくなっているなどが挙げられます。
こちらは第二象限の左下半分にあたります。
6. 破綻期(-投資CF>0>営業CF)
営業CFがマイナスで、さらに売却可能な資産を売り尽くして投資CFでもキャッシュが得られない状態。事業を継続すればするほど赤字が膨らみ危機的な状態。
マトリクスの第三象限にあたります。
CFマトリクスと企業フェーズ
企業は基本的にこの6つのフェーズを順番に経ていきます。
マトリクスで見ると「投資期」から「破綻期」にかけて反時計回りでフェーズが進んでいきます。
実際のCFマトリクスを見てみる
では実際のCFマトリクスを見てみましょう。
単年度ではなく、一定期間の経過を見ることで企業の特色を理解することができます。
ニトリ:安定期で堅実な経営を行う
2010年~2014年において、常に安定期にポジションをおいているのがニトリ。
大塚家具:資産売却で停滞を続ける
2010年以降、不要な資産売却を行い、自由に使えるフリーキャッシュフローを増やしているのが大塚家具。経営権をめぐるプロキシーファイトも記憶にあたらしいですね。来期の業績が気になるところです。
詳細の分析を知りたい方はこちらから:
三井物産:投資期と安定期の間でバランスを取る
投資期と安定期の間を行ったり来たりしながら営業キャッシュフローを増やしていっている三井物産。
三井物産の企業分析はこちらから:
三菱商事のCFマトリクス:低迷期からの脱出とメリハリのある投資
商社冬の時代といわれた2000年初頭、CFマトリクスでは一時停滞期にも入りましたが、その後着実に営業キャッシュフローを伸ばし、09年に比較的大きな投資、その後10年に回収。再度2012年に大型の投資を行い、14年は比較的投資は抑えています。
三菱商事の企業分析はこちらから:
さいごに
このように一見無機質な数値の並びですが、実際にマトリクスにして分析してみるとその会社のドラマを見ることができます。マトリクスを作るのは少し手間がかかりますが、興味のある会社は是非一度作ってみることをおすすめします。
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