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家具業界の企業分析|大塚家具低迷の原因を探る

大塚家具の経営方針を巡っての経営権争いが加熱していますが、今回は家具業界のビジネスの傾向と各企業の分析を進めていきたいと思います。

今回の騒動の経緯

大塚家具の創業者で現会長の大塚勝久氏と勝久氏の娘の大塚久美子氏の経営方針の違いが今回の騒動の原因となっています。

父・大塚勝久会長:これまでのお得意様向けへの会員制高級路線の継続
娘・大塚久美子氏:競合の動向も踏まえてお店の敷居を下げる取り組みを進める(≠低価格化)

大塚家具は高価格帯の商品を取り扱い、お客さん一人ひとりに販売員がつきっきりで接客することで合わせ買いなど客単価を高めることで成長してきました。
しかし、近年業績が低迷している状況です。

背景としてはニトリ・イケアなど低価格路線を展開する競合が台頭してきていること、高級家具を購入するような顧客層が減少していること等が挙げられます。

大塚家具の強みやブランド力を継続しようとする勝久氏と、競合の動向も踏まえて敷居を下げ購買層を増やしたい久美子氏、どちらの言い分が正しいかはなかなか判断しにくいでしょう。

大塚家具の業績推移

では過去10年間の大塚家具の業績の推移を振り返ってみましょう。

決算期 売上 [億円] 粗利[億円] 営利 [億円] 粗利率 営利率 売上
成長率
粗利
成長率
営利
成長率
2003年12月 730.5 395.9 60.5 54.2% 8.3%
2004年12月 688.1 373.3 40.3 54.3% 5.9% -6% -6% -33%
2005年12月 696.5 385.9 53.5 55.4% 7.7% 1% 3% 33%
2006年12月 700.6 379.2 52.4 54.1% 7.5% 1% -2% -2%
2007年12月 727.7 393.4 46.8 54.1% 6.4% 4% 4% -11%
2008年12月 668.0 352.3 12.7 52.7% 1.9% -8% -10% -73%
2009年12月 579.3 306.1 -14.5 52.8% -2.5% -13% -13% -214%
2010年12月 569.1 310.6 -1.3 54.6% -0.2% -2% 1% -91%
2011年12月 543.7 305.5 11.5 56.2% 2.1% -4% -2% -968%
2012年12月 545.2 308.5 11.8 56.6% 2.2% 0% 1% 3%
2013年12月 562.3 310.7 8.4 55.3% 1.5% 3% 1% -29%
2014年12月 555.0 306.0 -4.0 55.1% -0.7% -1% -2% -148%

 

大塚家具の業績推移[04~14年]

 

リーマン・ショックを堺に業績が悪化、09年に営業利益率が-2.5%まで低下した後に業績は持ち直しつつありましたが、14年に再度赤字に転落しています。

家具業界の業績比較

家具企業としてニトリ、イトーキ、イケア・ジャパン、大塚家具、ミサワ(unico)、カッシーナ・イクスシー の6社の業績を比較しました。(有価証券報告書を元に作成)

業績サマリー

売上、利益率共にニトリが他競合企業を大きく引き離しています。

社名 決算期 売上
[億円]
粗利
[億円]
営利
[億円]
粗利率 営利率
ニトリ 2014年2月 3,876.1 2,016.6 630.7 52.0% 16.3%
イトーキ 2013年12月 1,034.6 363.4 41.4 35.1% 4.0%
イケア・ジャパン 2014年8月 771.6 303.3 36.5 39.3% 4.7%
大塚家具 2013年12月 562.3 310.7 8.4 55.3% 1.5%
ミサワ 2014年1月 63.2 36.8 5.0 58.2% 7.9%
カッシーナ・イクスシー 2013年12月 62.6 31.4 4.1 50.3% 6.6%

 

数字だけではわかりにくいのでグラフ化してみました。
横軸に売上、縦軸に利益率をとったものです

家具企業6社の売上_利益率_ニトリ,イトーキ,イケア,大塚家具,ミサワ,カッシーナ

 

大塚家具は売上は4位につけていますが、営業利益率が圧倒的に低い数値(1.5%)となっているのがわかります。
(6社平均6.8%、ニトリを除く5社では4.9%になります)

ただし粗利率(売上総利益率:[売上-原価]/[売上])で見ると55.3%と、6社平均の48.2%と比較して悪くない数値です。
つまり、売上原価が高いのではなく、販管費(人件費や店舗家賃、広告宣伝費など)がかさみ収益が悪化していることがわかります。

販管費比率で比べる

では、販管費で何が収益を圧迫しているのでしょうか?
各企業の有価証券報告書よりそれぞれの販管費の項目のの売上に占める割合は下記の表のとおりです。

ニトリ イトーキ イケア
ジャパン
大塚家具 ミサワ カッシーナ
イクスシー
売上[億円] 3,876.1 1,034.6 771.6 561.7 63.2 62.6
売上原価[億円] 1,859.5 671.2 468.4 251.4 26.4 25.3
(売上原価率) 47.97% 64.87% 60.70% 44.75% 41.79% 40.45%
発送配達費 4.58% 2.71% 4.03%
広告宣伝費 2.89% 6.04%
販売促進費 1.94%
販売促進引当金繰入額 0.05%
給与手当及び賞与 9.84% 12.11% 15.89% 12.30% 13.23%
賞与引当金繰入額 0.55% 0.78% 0.16% 0.59%
法定福利費 2.95%
退職給付費用 0.82% 0.07% 0.61%
退職給付引当金繰入額 0.16%
役員退職慰労引当金繰入額 0.04% 0.03%
役員賞与引当金繰入額 0.09%
業務委託費 1.54%
研究開発費 0.42%
減価償却費 2.28% 0.37% 1.13%
賃借料 5.44% 15.05% 12.46% 9.99%
貸倒引当金繰入額 -0.01% 0.00% -0.01% 0.01%
支払い管理費 3.38%
販管費[億円] 1385.8 322.0 266.7 302.3 31.8 25.8
(販管費率) 35.75% 31.13% 34.57% 53.81% 50.24% 41.24%

 

他企業と比較すると「給与手当及び賞与(人件費)」「賃借料」の2つの比率が高くなっています。

人件費を比べる

大塚家具の不振の原因の一つが人件費にあることがわかりましたが、さらに詳しく見てみましょう。

ニトリ イトーキ イケア
ジャパン
大塚家具 ミサワ カッシーナ
イクスシー
売上/従業員数
[万円]
4629.2 3174.6 2471.6 3215.0 1909.4 2172.7
粗利/従業員数
[万円]
2408.4 1115.2 971.4 1776.4 1110.9 1091.9
営利/従業員数
[万円]
753.3 127.0 117.0 48.2 151.6 142.7
連結従業員数 8373 3259 331
単体従業員数 159 1898 3122** 1749 228 288
平均年間給与
(単体)
783.8* 589.5 463.0 409.4 469.0

*ニトリは「ニトリホールディングス」の単体となるため、他企業よりも平均給与が高くなります
**イケア・ジャパンは経済産業省の平成25年「ダイバーシティ経営企業100選」より

大塚家具は平均年収が他企業と比べ大差ないにも関わらず、一人あたり営利率がダントツに低くなっています。
このことから人件費は一人あたりの年収が高いのではなく、従業員数が多すぎることがわかります。

キャッシュ・フローマトリクスで比べる

キャッシュ・フローマトリクスとは

横軸に営業キャッシュフロー(営業CF)、縦軸に投資キャッシュフロー(投資CF)をとったグラフをキャッシュ・フローマトリクスと呼び、このマトリクスで企業のライフサイクルがどこに位置しているのかがわかります。

営業CFがプラスということは企業が本業の事業でキャッシュが入ってきている(収益を得ている)ことになります。
また、投資CFがマイナスということは投資においてキャッシュが出て行っている(投資をしている)ことであり、逆に投資CFがプラスということは投資でキャッシュが入ってくる(資産売却などで収益をえている)ことになります。

投資期(-投資CF>営業CF>0):投資額が営業CFより大きく、事業投資している時期であることがわかります。

安定期(営業CF>-投資CF>0):営業CFが投資額より大きく、事業投資を回収しているフェーズであることがわかります。

停滞期(営業CF>0>-投資CF):営業CFはプラスで収益を得ていますが、投資CFがプラス(資産を売却してキャッシュを得ている)フェーズ。

低迷期(0>-投資CF>営業CF):営業CFがマイナスで損失が出ていますが、資産売却などによって何とか収益を得ているフェーズ。

後退期(0>営業CF>-投資CF):営業CFのマイナスが、資産売却などによるキャッシュを超えてしまい事業が後退している状態。

破綻期(-投資CF>0>営業CF):営業CFがマイナスで、さらに売却可能な資産を売り尽くして投資CFでもキャッシュが得られない状態。事業を継続すればするほど赤字が膨らみ危機的な状態。
CFマトリクスの読み解き方

詳しくはこちらから:

キャッシュフローマトリクスの読み解き方~企業を変遷を知る
キャッシュフローマトリクスと企業分析の方法についてご紹介。PL(損益計算書)に比べてなんだかとっつきにCFですが、企業のお金の流れを直接見れる非常に便利な指標のなのです。これらを経年で可視化するCFマトリクスについてお伝えします。

ニトリと大塚家具のCFマトリクスを比べる

では好業績のニトリと低迷している大塚家具のCFマトリクスを比べてみましょう。

ニトリ_CF_matrix大塚家具_CF_matrixニトリは10~14年の5年間常に安定期に位置しており、一方大塚家具は「投資期」→「停滞期」に移行していることがわかります。

有価証券報告書を見ると大塚家具は13年12月期に「投資有価証券の売却による収入」として6.02億円計上しています。

 

appendix_各社の業績一覧

家具企業としてニトリ、イトーキ、イケア・ジャパン、大塚家具、ミサワ(unico)、カッシーナ・イクスシー の6社の業績を比較しました。(有価証券報告書を元に作成)

株式会社ニトリの業績

決算期 売上 [億円] 粗利[億円] 営利 [億円] 粗利率 営利率 売上
成長率
粗利
成長率
営利
成長率
2010年2月 2,861.9 1,542.8 464.6 53.9% 16.2%
2011年2月 3,142.9 1,724.8 526.7 54.9% 16.8% 10% 12% 13%
2012年2月 3,310.2 1,839.4 579.5 55.6% 17.5% 5% 7% 10%
2013年2月 3,487.9 1,926.2 615.5 55.2% 17.6% 5% 5% 6%
2014年2月 3,876.1 2,016.6 630.7 52.0% 16.3% 11% 5% 2%

 

決算期 従業員数 平均
臨時雇用
一人当たり
付加価値
[万円/人]
営業キャッ
シュ・フロー
[億円]
投資キャッ
シュフロー
[億円]
財務キャッ
シュフロー
[億円]
現金及び
現金同等物の
期末残高
2010年2月 6,145 4,691 251 427.6 -274.4 -155.1 99.7
2011年2月 6,073 6,341 284 346.5 -266.8 -35.8 140.4
2012年2月 7,213 7,143 255 439.1 -229.3 -161.0 184.1
2013年2月 7,496 7,776 257 419.9 -219.4 -220.5 168.2
2014年2月 8,373 8,511 241 461.5 -323.8 -10.5 211.8

ニトリ_CF_matrix

株式会社イトーキの業績

決算期 売上 [億円] 粗利[億円] 営利 [億円] 粗利率 営利率 売上
成長率
粗利
成長率
営利
成長率
2009年12月 794.4 236.5 -53.3 29.8% -6.7%
2010年12月 832.5 258.5 -4.8 31.1% -0.6% 5% 9% -91%
2011年12月 920.9 298.7 8.4 32.4% 0.9% 11% 16% -274%
2012年12月 1,055.1 354.8 34.4 33.6% 3.3% 15% 19% 309%
2013年12月 1,034.6 363.4 41.4 35.1% 4.0% -2% 2% 20%

 

決算期 従業員数 平均
臨時雇用
一人当たり
付加価値
[千円/人]
営業キャッ
シュフロー
[億円]
投資キャッ
シュフロー
[億円]
財務キャッ
シュフロー
[億円]
現金及び
現金同等物の
期末残高
2009年12月 2,840 83 -3.1 -45.5 5.0 80.9
2010年12月 2,827 91 0.0 15.0 12.2 207.9
2011年12月 3,173 94 -10.4 9.6 -11.5 95.6
2012年12月 3,237 110 82.6 -0.1 -16.5 161.6
2013年12月 3,259 112 31.6 -19.8 0.5 181.0

イトーキ_CF_matrix

株式会社大塚家具

決算期 売上 [億円] 粗利[億円] 営利 [億円] 粗利率 営利率 売上
成長率
粗利
成長率
営利
成長率
2009年12月 579.3 306.1 -14.5 52.8% -2.5%
2010年12月 569.1 310.6 -1.3 54.6% -0.2% -2% 1% -91%
2011年12月 543.7 305.5 11.5 56.2% 2.1% -4% -2% -968%
2012年12月 545.2 308.5 11.8 56.6% 2.2% 0% 1% 3%
2013年12月 562.3 310.7 8.4 55.3% 1.5% 3% 1% -29%

 

決算期 従業員数 平均
臨時雇用
一人当たり
付加価値
[千円/人]
営業キャッ
シュフロー
投資キャッ
シュフロー
財務キャッ
シュフロー
現金及び
現金同等物の
期末残高
2009年12月 1,747 175 -1.33 -1.56 -7.75 70.97
2010年12月 1,678 185 7.17 -7.68 -7.76 62.71
2011年12月 1,673 183 9.28 7.00 -7.76 71.24
2012年12月 1,673 184 13.85 3.89 -15.76 73.21
2013年12月 1,749 178 5.28 3.24 -7.42 74.31

大塚家具_CF_matrix

 株式会社ミサワ(unico)

決算期 売上 [億円] 粗利[億円] 営利 [億円] 粗利率 営利率 売上
成長率
粗利
成長率
営利
成長率
2010年1月 29.5 17.4 0.4 58.8% 1.2%
2011年1月 37.9 22.3 2.1 58.8% 5.5% 28% 28% 482%
2012年1月 46.2 27.8 3.9 60.1% 8.5% 22% 25% 87%
2013年1月 51.4 30.4 3.8 59.2% 7.4% 11% 9% -3%
2014年1月 63.2 36.8 5.0 58.2% 7.9% 23% 21% 31%

 

決算期 従業員数 平均
臨時雇用
一人当たり
付加価値
[千円/人]
営業キャッ
シュフロー
投資キャッ
シュフロー
財務キャッ
シュフロー
現金及び
現金同等物の
期末残高
2009年12月 209 8 83 1.90 -1.80 -0.59 2.80
2010年12月 230 23 97 2.50 -1.79 -0.68 2.82
2011年12月 252 30 110 0.47 -1.59 1.87 3.56
2012年12月 284 19 107 1.82 -1.57 -0.12 3.73
2013年12月 331 106 111 2.10 -2.23 1.35 5.01

株式会社カッシーカッシーナ・イクスシー

決算期 売上 [億円] 粗利[億円] 営利 [億円] 粗利率 営利率 売上
成長率
粗利
成長率
営利
成長率
2009年12月 62.3 30.5 -3.0 49.0% -4.9%
2010年12月 53.8 26.2 -0.3 48.8% -0.6% -14% -14% -89%
2011年12月 53.1 27.0 2.0 50.9% 3.8% -1% 3% -712%
2012年12月 53.1 27.8 2.0 52.4% 3.8% 0% 3% 1%
2013年12月 62.6 31.4 4.1 50.3% 6.6% 18% 13% 103%

 

決算期 従業員数 平均
臨時雇用
一人当たり
付加価値
[千円/人]
営業キャッ
シュフロー
投資キャッ
シュフロー
財務キャッ
シュフロー
現金及び
現金同等物の
期末残高
2009年12月 227 134 2.80 2.53 -4.24 11.39
2010年12月 196 134 1.96 9.35 -12.01 10.45
2011年12月 188 144 1.57 10.18 -10.72 12.88
2012年12月 200 139 2.33 -3.41 9.42 13.86
2013年12月 204 154 1.15 -1.32 1.04 14.72

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2017/09/15 企業分析 , , ,

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