三井物産の人事制度~求められる能力と昇進の条件を知る
財閥系総合商社の三井物産の人事制度についてご紹介。企業における詳細な人事制度は採用HPなどには記載されていませんが、人事の専門書などを読むと、人事制度の例としてより詳しく知ることができます。
みなさんは就活生ですので、詳細まで理解する必要はありませんが、「どの様な能力が必要とされていて」「どの様な条件で昇進をするのか」を知っていると、ESや面接にてより効果的なアピールの方法にも繋がりますし、入社後のキャリアのイメージもつかめるかと思います。
今回は日本経団連出版が出している『最新成果主義型人事考課シート集―本当の強さをつくる評価・育成システム事例』より三井物産の人事制度について見て行きましょう。
※書籍のタイトルには「最新」とありますが出版されたのは2003年ですので、現在は変更となっている可能性がありますのでご注意ください。
三井物産の企業分析についてはこちらから:
職群の分類と、給与、昇進の条件
6つの職群の分類
三井物産では成果主義とPay For Performanceを基本コンセプトとして職群制度を取り入れています(正確には「いました」)。
その職群は記の6つに分類されます。
MT(マネジメント群)
→部店長、海外店長など
MS(マネジリアルスタッフ群)
→本部長補佐、大規模海外店長補佐など
SS(シニアスタッフ群)
→大規模組織方針に直結する戦略や高度な課題の企画立案、実践遂行を行う職務
BL(ビジネスリーダー群)
→室長
SF(スタッフ群/一般型、裁量型)
→基幹業務担当者
BS(ビジネスサポート群)
→補助的業務担当者
年収の算出ロジック
「年収=月例給与+賞与」が基本。
月齢給与は「職群基本給(先述の職群ごとに固定)」+「個人能力給(コンピテンシー評価により変動)」により決定されます。
SF群裁量型以上の各職群基本給は固定で、職群内での報酬の差は「個人能力給」として評価によって変動します。
一方、賞与は「基本賞与(職群別一律)」+「個人成果給(個人成果評価により変動)」+「組織業績給(組織業績評価により変動)」によって決定されます。
職群移行(昇進)の条件
新入社員はBS群で3年間の職務経験を積んだあとに、職群移行試験を受験しそれに合格すれば基幹職群であるSF群一般形に移行します。
SF群一般型移行後、7年目に自主的時間管理可能と判断されればSF群裁量型に移行します。
SF群以降はBL群に進む場合もあればSS群に進む場合がある。どちらに進んでもマネジメント群に到達するには、関連会社または海外勤務経験が通算4年以上必要となります。
上記をまとめると下記のようになります。
三井物産で部長になるまでに必要な年数
先述の職群以降の条件から計算すると、最短で15年ほどでマネジメント群(部店長)に到達できることになりますが、実際にはどれくらいの年数が必要なのでしょうか?
2015年6月現在の三井物産の会社概要に記載されている取締役(ただし社外取締役は除く)の12名の経歴を分析し、入社から各役職まで平均何年かかっているのかを割り出しました。
役職 | 年数 |
---|---|
部長 | 27年2ヶ月 |
執行役員 | 31年4ヶ月 |
常務執行役員 | 33年7ヶ月 |
専務執行役員 | 35年2ヶ月 |
社長 | 34年3ヶ月 |
会長 | 41年7ヶ月 |
取締役まで出世するような社内でのエリート中のエリート社員だけをみても、入社から部長までの平均年数は27年2ヶ月かかっており、現役で大学入学・ストレートに卒業しても平均49歳となります。
興味深いのは12名中8名が入社から25年~27年の間に部長になっていることです。入社年次と昇進に大きな関連性が(過去に)あったことが伺えます(現在はより柔軟な制度が取り入れられている可能性もありますが、まだ経歴が掲載されるような取締役のポジションには付いていないようです)
三井物産の人物特徴・能力特徴の表現
本書には人材開発の資料として、「人材開発・活用調査票」というサンプルが記載されています。その中の「本人の人物特徴、能力特徴」として下記の様な表現をされています。
人物特徴
「論理的」「直感的」「温厚」「如才ない」「官僚的」「明朗闊達」「協調的」「外交的」「積極的」「客観的」「合理的」「冷静」「要領型」「慎重」「粘り強い」「頼りにされる」「独立心が強い」「順応性に富む」
能力特徴
「商売センスあり」「起業家タイプ」「構想力あり」「戦略性に富む」「バランス感覚」「調整力あり」「大局観にすぐれる」「リーダーシップ」「独唱力あり」「頭脳明晰」「計数感覚あり」「管理能力あり」
したがって、採用の場面でも学生のみなさんの評価について「〇〇(人物特徴)のような人」「〇〇(能力特徴)がある人」として表現されている可能性があります。
人物特徴についてはすべてが肯定的な要素とは限りませんが、能力特徴については会社側が重視している能力と言えそうです。
ESや面接の際もこのような点を意識しながら自己PRをしていくとよいでしょう。
スタッフ群のコンピテンシー基準
三井物産では社員の評価にコンピテンシー評価を取り入れています。コンピテンシーとはアメリカのマクレランド博士が提唱した「優れた業績を上げる人物の行動特性」です。
コンピテンシーについて詳しく知りたい方はこちらの記事を御覧ください:
なかでもスタッフ群(入社3年目以降の社員)のコンピテンシー基準は6つのカテゴリに分けられ、下記のように表現されています。
カテゴリ | コンピテンシーの定義 | |
---|---|---|
企画・立案 | 課題形勢 | ・所属組織の方針/戦略と組織目標を明確に理解し、担当職務における目標と課題を明確にする。 ・担当職務を遂行するための行動計画(スケジュール、予算を含む)を作成する ・所属組織の戦略やその実行案につき意見を具申する |
予見/創造 | ・担当職務に関係する業界の動きを予見し、それに対応した新たな手法や仕組みを提案する ・担当職務遂行において既存概念にとらわれず、より効果的・効率的方法を創出する |
|
分析/把握 | ・担当職務遂行において既存概念にとらわれず、より効果的・効率的方法を創出する担当職務において深い理解が求められる重要事項(収益力、投資効果、市場/業界など)につき詳細な分析を行い課題を明らかにする ・分析結果を論理的にわかりやすく整理し、対応策とともに上司へ報告・意見具申する。 ・担当業務において、顧客及び車内外の関係者からキーパーソンを見抜き関係構築を行う |
|
情報活用 | ・業界や市場の最新情報を深く細かく収集し活用する ・担当職務において、車内外の関係者と緊密な関係を築き、担当レベルの有効情報を収集し活用する。また適宜上司に報告する。 |
|
実行・推進 | 決断/行動 | ・主体性を持って機敏に行動し、正確で効率的な業務遂行を行う ・困難な環境下にあっても、全力を尽くし、担当職務の目標を達成する ・業務の進捗状況を管理し、目標達成に必要な対応策を時機を逸することなく実行する |
交渉/説得 | ・担当職務における車内外の関係者と長期にわたる信頼関係を築く ・客観的なデータ・資料にもとづき、具体的な交渉を熱意をもって行い合意を形成する |
|
コーディネーション | ・担当職務において、顧客および車内外関係者の利害衝突が発生した際には適切な調整を行う ・組織内の関係者の協力を最大限得るように意思疎通を行う |
|
コミュニケーション | ・良いニュースのみならず問題や悪いニュースを適時的確に上司に報告し解決策を提案する ・業務の進捗状況や見通しを適時上司に報告し情報を共有する |
|
リスクマネジメント | リスクマネジメント | ・担当業務において、リスクを詳細に分析し、上司と相談の上、対応策を取る ・事故、問題の発生時にはただちに上司に報告し対応策を取る |
チームワーク・リーダーシップ | チームワーク/リーダーシップ | ・顧客及び車内外の関係者から信頼される行動をとる ・業務への真摯な取り組み、上司への補佐、組織メンバーへの協力により上司および組織メンバーから信頼される ・相手の立場に立って考えた行動をとる |
セルフマネジメント | ・高い良識・モラルを持ち、当社の社員として字画と責任感をもって行動する ・社内ルールを理解し遵守する ・社会的責任を自覚し、顧客満足、互恵的利益をもたらすビジネスを追求する ・高い志をもち、公私を峻別する |
|
人材活用 | 評価/育成 | – |
組織力の向上 | ・組織メンバーと効果的に協力し知識・スキルの共有化・伝承を行う | |
知識・自己啓発 | 専門知識/実務知識 | ・業務遂行に必要な実務知識を習得し活用する ・語学力を高め、活用する ・PC・OAスキルを習得し、活用する |
自己啓発 | ・自己啓発を行い、業務遂行能力を向上させる ・新しい分野へ積極的にチャレンジし、自己研鑚をおこなう。 |
※日本経団連出版『最新成果主義型人事考課シート集―本当の強さをつくる評価・育成システム事例』P36より引用
このコンピテンシー基準(成果を上げる人の行動特性)は入社3年目以降の基幹業務担当者のものであり、そのまま採用での評価基準になるわけではありませんが、一定の関連性はあると思われます。
こちらの定義によると三井物産での「コミュニケーション能力」とは「良いニュースのみならず問題や悪いニュースを適時的確に上司に報告し解決策を提案する」「業務の進捗状況や見通しを適時上司に報告し情報を共有する」ことであり、就活生の多数が考えているもの異なりますね。
また、これらのコンピテンシーの中に「意思決定」という言葉が含まれていないのは興味深いですね。その代わりに「上司へ具申する(詳しく申し述べること)」など言葉があり、スタッフ群のポジションでは意見を言うことはできるが意思決定の権限はないことが見て取れます。意思決定をするにはこれよりも上の役職にならないと難しそうです。
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